田中 (1998)

田中 宏和 (1998),“階層型ポリエージェント組織による人事考課基準の作成”,経営情報学会誌,Vol.7,No.1,pp.97-116.

概要

この研究では日本に多い協調型の組織における有効な人事考課基準へのアプローチとして,従来の分析的アプローチではなく創造的なアプローチの必要性を指摘し,その実現のために階層型ポリエージェント組織による方法論を提案している.階層型ポリエージェント組織は組織内でのエージェントの内部モデルの相互参照を促進し,議論を通じた価値基準や行動規範(すなわち人事考課基準)の創造を可能にする.そしてこの方法論を実際の企業に適用し,有効性と問題点を検討している.

日本型企業などの協調型組織における人事考課基準の作成

田中によれば人事考課基準を設計する際には次の3つの要件に留意する必要があるという.

  1. 能力基準の多義性(意味解釈の自由度)を縮小する
  2. 考課基準の多様性(事実認識の範囲の広さ)を拡大する
  3. 考課基準を社員意識改革の道具にもする

日本型企業やフラット型組織においては仕事が協調的に行われるために,多義性が小さい職務基準を作成することが困難であった.一方で,フラット型組織においては創造性や柔軟性,即応性を重視して組織設計がなされているから,考課基準を分析的に作成するよりも,考課基準を再検討し,革新していくような創造的なアプローチが求められている.

階層型ポリエージェント組織

階層型ポリエージェント組織は,多義性が小さく,多様性が大きい考課基準の作成を可能にする組織デザインである.ポリエージェントのパラダイムでは主体の自律性が強調される.エージェントは自ら組織を変革し,適応的であり得ると考えられる.

階層型ポリエージェント組織の特徴は,以下の2つである.

  • 権限関係
  • 上位者によるネットワーク組織

階層型ポリエージェント組織の階層性はエージェント間の上位者-下位者という弱い権限関係として定義される.ここで権限とは上位者は下位者の内部モデルを自分の内部モデルに置き換えることをさす.

また,階層型ポリエージェント組織における上位者はネットワークを形成する.すなわち,組織には複数の階層型ポリエージェント組織が定義され,これらの上位者によってネットワークが形成された状態が組織全体を指す.上位者によるネットワーク形成の目的は,上位者によるディスカッションにより,組織のビジョンや価値基準を再定義して,各階層型ポリエージェント組織の活動が適応的であるようにすることを目的とする.

人事考課基準作成方法論

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