Kim (1993)

Daniel H. Kim (1993) "The Link between Individual and Organizational Learning", Sloan Management Review, Vol.35, No.1, Fall, pp.37-50.

OADI-Shared Mental Model(SMM) Cycle

Kim (1993)の主たる貢献はOADI-SMMモデルを示して,組織学習における個人の学習と組織の学習の連関を明らかにしたことにある.Kim (1993)では,既存の研究における組織学習概念を整理しながら,その統合モデルとしてOADI-SMMモデルを提示し組織学習におけるダイナミクスの全体像を把握することを可能にした.

OADI-SMMモデルのコンポーネント

OADI-SMMモデルは既存の組織学習研究における部分的な知見を統合することによって,組織学習の全体像に接近することを意図している.OADI-SMMモデルにおけるコンポーネントとなっている研究群を以下に示す.

  • Argyris & Schonのsingle-/double-loop learning
  • Kofmanの個人の学習のOADI Cycle
  • March & OlsenのOrganizational Learningモデル
  • Shared Mental Model (SMM)
Argyris & Schonのsingle-/double-loop learning

Argyris & Schonは組織学習において,single-loop learningとdouble-loop learningの2つを同定した.組織学習をそのまま組織学習としてとらえるのではなく,実現する内容が異なる2つのレベルに分類することで,組織内において行われている学習の意味づけが分類を通して明確にできるようになった.

Argyris & Schon (1996)によれはsingle-loop learningはサイバネティクスの概念の安定システムにおける適応行動と対応し,double-loop learningは有効パラメータ値の変化と対応するという.安定システムにおける適応行動はシステムが危機的でない状況下でのシステムの振る舞いの制御を意味し,負のフィードバックと考えられる.有効パラメータ値の変化はシステムの安定性を達成するためにシステムのフィールドを変化させることを意味する.

Argyrisは頻繁にsingle-loop learningとdouble-loop learningをサーモスタットを例に説明する.Argyris (1994)では,single-loop learningを表面的な(one-dimensional)答えを表出させる表面的な質問をすることとし,サーモスタットが制御のために設定に対する周囲の温度を計測して熱源のスイッチをオン/オフすることと対応させている.一方,double-loop learningはsingle-loop learningにいくつかのステップが加わるとして,サーモスタットの場合では現在のセッティングが実際に最も有効な温度なのかを問い直す学習で,目標とする事実だけでなくその事実の背後の理由や動機(仮定)に対して問いかけるとしている.

そしてかれらは組織の長期適応の実現のためにはsingle-loop learningでは十分ではなく,double-loop learningが実現される必要があると主張し,double-loop learningが行われるような組織の使用理論Model IIを持つシステムO-II systemへと変革することが不可欠であるとしている.

Kofmanの個人の学習のOADI Cycle

Kofmanはobserve,assess,design,implementの4つの活動からなる個人の学習のサイクルを提示している.活動のそれぞれの説明は以下の通り.

  • observe(観察):物事の経験を通じて何が起きたのかを観察する.
  • assess(評価):その観察について内省(reflection)を加える.
  • design(デザイン):その評価に対して適当なレスポンスであるような抽象的なコンセプトをデザインする.
  • implement(実装):抽象的なデザインを具象の世界においてテストする.

observeとimplementは現実の世界における学習のプロセス,assessとdesignは学習者の心の中での抽象化(モデル化)された世界における学習のプロセスである.Kimは前者をoperational learning,後者をconceptual learningと分類・定義している.

March & OlsenのOrganizational Learningモデル

March & Olsenは組織学習を(1)individual beliefsからindividual action,(2)individual actionからorganizational action,(3)organizational actionからenvironmental response,(4)environmental responseからindividual beliefsの4つの遷移からなるサイクルとしてモデル化した.特に個人の行動と組織の行動の区別を行っているところに特徴がある.

さらに,この4つの遷移においてうまくいかないことを,不完全な学習(imcomplete learning)と名付け,それぞれの遷移における不完全な学習の類型化を行っている.*1

  • role constrained learing:(1)における不完全な学習.役割の制約によって,個人の学習が個人の行動へ反映されない.
  • audience learning:(2)における不完全な学習.あいまいな(ambiguous)形で,個人の行動が組織の行動へ影響する.
  • superstitious learning:(3)における不完全な学習.行動がとられて,環境が反応しても,その2つの間に接続がない.
  • learning unbiguity:(4)における不完全な学習.個人は組織の行動に影響し,環境へと影響を与えるけれど,そのイベント間の関係性が明らかではない.
Shared Mental Model (SMM)

OADI-SMMモデルは(1)個人のメンタルモデルと(2)共有メンタルモデルの交換(exchange)を通じた学習の転送(transfer)の問題を取り扱う(pp.43).共有メンタルモデルは個人のメンタルモデルの影響を受ける一方で個人のメンタルモデルも共有メンタルモデルの影響を受けるとしている.

個人メンタルモデルとはfremeworksとroutinesからなり,共有メンタルモデルはWeltanshauungとorganizational routinesからなる.frameworksとWeltanshauungが対応し,routinesとorganizational routinesが対応する.Kimによれば,frameworksあるいはroutinesは以下を指す.

  • frameworks:世界を見る方法.考え方.世界観.know-whyに関連する.
  • routiens:standard operating procedure.know-howに関連する.

Kimはorganizational double-loop learningについて以下のように述べている.

Organizational double-loop learning occurs when individual mental models become incorporated into the organization through shared mental models, which can then affect organizational action.(pp.45)

ここで個人の学習から組織の学習への連関が示されている.organizational double-loop leanringはindividual double-loop learningにおいて変化する個人のメンタルモデルが共有メンタルモデルを通じて組織に組み込まれる際に起こる,共有メンタルモデルの変化であると考えられる.

OADI-SMMモデルによる7つの不完全な学習の同定

March & Olsenによる4つの不完全な学習の同定に加えて,Argyris & Schonのsingle-/double-loop learning,individual/shared mental model概念の導入によって,学習を遷移として考えたときの不完全な学習を新たに3つ加えている.

  • situational learning:学習した結果を後に利用するためにコード化することを忘れる/しないことにより,個人のメンタルモデルが変化しない.
  • fragmented learning:個人が学習したとしても,組織全体としては学習がなされないこと.個人のメンタルモデルが変化しても,組織のメンタルモデルが変化しない.
  • opportunistic learning:組織全体の(メンタルモデルの)変化を待ちきれずに,行動を起こしてしまうこと.組織の行動が個人の行動に基づいて行われ,共有メンタルモデルに基づいていない.

代表的な批判

KimによるOADI-SMMモデルは組織における組織学習の全体像を示し,諸活動間の関係性を把握することを可能にするという点において,非常に有用である.しかしながら,代表的には以下に示す2つの批判がなされている.

  • 組織の構造的な議論の不足
  • 操作的なレベルでの議論の不足

Kimはこの研究の中でマネジメントへのimplecationとして,(1)メンタルモデルの表出化と(2)共有メンタルモデルの構築の重要性について触れている.しかしメンタルモデルの表出化はSystem Dynamicsを利用すればよいという程度で,(1)(2)を実現するために何をどうすべきかという議論は十分ではない.後のEspejo etal. (1996)の研究においては,組織サイバネティクスの観点から(1)(2)を実現するようなコミュニケーションのあり方,そしてこれを規定する組織構造についての議論がなされている.

Kimの研究では組織内における活動や対象間における遷移が学習として記述されているが,この学習がどのように行われるのか(あるいはどのような仕組みで行われるのか)については明らかにされていない.たとえば,個人のメンタルモデルから組織のメンタルモデルへの遷移はどのように行われるのか.このメカニズムはorganizational double-loop learningを実現する上で非常に本質的であると考えれるが,Kimの研究では少なくとも操作的なレベルでは記述されていないために,明らかではない.たとえばTakadama etal. (1999)の研究は,例に出した問題意識から,この遷移のメカニズムを操作的に定義したモデルを展開している.

References

  • Argyris, C. (1994) "Good Communication That Blocks Learning", Harvard Business Review, July-August, pp.77-85.
  • Argyris, C. & Schon, D.A. (1996) Organizational Learning II Theory, Method, and Practice Addison-Wesley.
  • Espejo, R., Schuhmann, W., Schwaninger and M. & Bilello, U. (1996) Organizational Transformation and Learning, John Wiley & Sons.
  • Kim, D.H. (1993) "The Link between Individual and Organizational Learning", Sloan Management Review, Vol.35, No.1, Fall, pp.37-50.
  • Takadama, K., Terano, T., Shimohara, K., Hori, K. and Nakasuka, S. (1999) "Making Organizational Learning Operational: Implications from Learning Classifier Systems", Computational & Mathematical Organizaition Theory, Vol.5, pp.229-252.

*1:不完全な学習についてはEspejo etal.(1996)も参照.