Matteo Richiardi, Roverto Leombruni, Nicole Saam and Michele Sonnessa (2006) A Common Protocol for Agent-Base Social Simulation. Journal of Artificial Societies and Social Simulation, Vol.9, No.1

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背景

伝統的なモデリングによる研究は洗練された,しかしながら暗黙的な方法論の作法に依拠してモデル表現や分析がなされている.
コンピュータシミュレーションには受け入れられた方法論的標準への参照が欠けていることが多い.

このことが社会科学者の主流に懐疑の念をもたれ,トップジャーナルへの低い受理率へとつながっている.

エージェントベースドモデル自体はしっかりとした方法論的基礎がある.
陥りがちな落とし穴を明らかにして,うまくいくやり方を研究していく.

4つの落とし穴

  • 従来研究との接合
  • モデルの構造
  • 分析(探索,均衡,調査,estimation/calibration,感度分析,妥当性)
  • 再現性
従来研究との接合

ABSは往々にして既存研究とかなり異なる.
これにより,

  • モデル構造の説明により多くのスペースが必要となる.
  • モデルから生成された評価がより難しくなる.

これに対する提言

  • 調査する現象の理論的背景へのリファレンスを含めるべき.
  • 新しいモデルは必ず,従来に比べて新しい点があるモデルをリファーすべき:発達の経過を示すことは主流の研究にもふれる必要を示唆する
モデル構造

他の仕様との比較とモデルの理解のために,すべての主要な特徴は明示的に速やかに述べられるべき.

  • 技術的な特性
    • 時間概念の取り扱い(discrete/continuous)
    • 運命の取り扱い(stochastic/deterministic)
    • 空間の表現(topology)
    • 人口の創生(birth and death process)
  • あまり技術的でない特性
    • heterogenuityの取り扱い
    • 相互作用構造(localized/non-localized)
    • 調整構造(centralized/decentralized, ...)
    • 個々の振る舞いの類型(optimization/satisfaction)
分析

シミュレーションではそのモデルのダイナミクスについての一般的命題を述べるのに,観察によるアプローチしかないのが苦しいところ.

探索(exploration)

  • 一般的には全探索されるべき:従来研究で示されている結果に対応づけて,すべての変数の振る舞いを探索すべき
  • もし部分探索なら,それが明示的に記述され,その理由が示されるべき

均衡(equilibrium)
使われている均衡概念と均衡を同定するのに使用する戦略を明示的に定義すべき.

  • ミクロ・レベルの均衡:個人の戦略が安定する状態など
  • マクロ・レベルの均衡:システムの関連指標が安定する状態など

調査(investigation)
人工的なデータから明らかになった性質は統計的なテストがなされるべき.

  • 大域的調査:理論的な観点からモデルが構築されたとき,パラメータ空間の広い地域でどうモデルが振る舞うのか?に関心
  • 局所的調査:実証的関心があるとき,パラメータの制限された値域でモデルがどうふるまうのか?に関心


estimation/calibration
estimation:実世界のシステムとモデルの振る舞いの対応(近似)を最大にするパラメータの値を選択するプロセス

  • ABSではestimationのステージがないことが多い.
  • estimationの厳密な手続きが必要で,それに関連しているリファレンスが示されるべき.

感度分析
感度分析は自然科学や工学においてシミュレーションモデルを保証する標準的な方法

  • 感度分析の3つの目的
    • シミュレーションの主要結果を確認する
    • 可能な結果の多様性を明らかにする
    • さらなる調査への最重要なプロセスを示す
  • 感度分析方法
    • random seed variation:モデルにおけるランダムな要素の影響テスト
    • noise type and noise level variation:確率的な要素の影響のテスト
    • parameter variation:physical, cognitive, behaviouralなパラメータ
    • temporal model variation:continuous/discontinuous
    • variation in the level of data aggregation:モデルの粒度の影響のテスト
    • variation in the decision processes and capabilities of teh agents:意思決定プロセスやエージェントの能力の違いのテスト
    • variation of sample size:モデルにおけるサンプルサイズの影響のテスト

validation

妥当性のフォーマルな定義:1つのシステムともう1つのシステムの間の同型性の程度

理論ベースあるいはデータベースのシミュレーション研究は以下の5つのすべてのタイプを考慮すべき.

  • 3つの妥当性概念
    • 理論妥当性:理論と現実世界のシステムとの妥当性
    • モデルの妥当性:モデルと理論との妥当性
    • プログラム妥当性:シミュレータとモデルとの妥当性
  • 実証科学の妥当性概念
    • operational validity:指標と理論的概念との妥当性
    • empirical validity:指標と実証で起きた実際の値との妥当性

経験的に明らかになっている妥当性にかんする質問(hearistic question)

  • モデル構造の妥当性
    • 構造の確認:モデル構造がシステムの関連する知識と整合するか?
    • 極限状況:入力が極端な値の時,意味をなすか?
    • 境界の適当さ:問題を記述するのに必要
  • モデルの振る舞いの妥当性
    • 振る舞いの再現性:現実のシステムの振る舞いの再現ができているか?
    • 振る舞いの不規則性:モデルの制約をなくしたら不規則な亜振る舞いが生じるか?
    • 同類(family member):モデルと同じクラスのシステムの他の例の振る舞いを再現できるか?
    • 極端なポリシー:極端なポリシーやテスト入力に対して適当な振る舞いをするか?
  • 2つのプログラム妥当性
    • バグトラッキング:モデルの含意が使用したプログラムによって複製されているか?
    • 技術的実装に応じたモデルの修正:モデルの結果が技術的な実装に左右されないか?

シミュレーション結果の妥当性の確認は必ずなされるべき;妥当性の確認は理論的というより社会的

再現可能性

シミュレータのソースを論文等に実質的には添付することはできないから,多くのシミュレーション研究では再現可能性が問われる.

  • ソースをオープンにする
  • よくドキュメント化する
  • UMLの活用